バーでお酒を注文するとき、何を注文しますか?
まずはビール?それとも、ソルティードッグ?コスモポリタン?
私はゴッドファーザーを頼みます。
今回はどうしてゴッドファーザーを頼むようになったのかというお話です。
(そんな大層な理由ではないのですが。)
飲酒よりも前から好きだったのは読書でした。
今も昔も、江國香織さんが好きです。
初めて読んだ江國作品は『冷静と情熱のあいだ』でした。映画化もされたのでご存知の方も多いと思います。他にも、『東京タワー』『間宮兄弟』などが映画化されていますが、私が一等好きなのは『神様のボート』*1という作品です。
そのなかに、こんな一文があります。
「ママはシシリアンキスというカクテルをのんでいた。カクテルを作るのはパパの役目で、パパのつくるシシリアンキスは『倒れそうに甘くて病みつきになる味』だったそうだ。
グラスの液体はとろりとした琥珀色で、『午後の戸外の飲み物として、あんなに幸福なものはない』らしい。氷が日ざしをうけてみずみずときらめくのだそうだ。」
こんなクラクラとしてしまうような一文を高校生時分の小娘が読んだら、いつの日かシシリアンキスを呑んでみたいと思ってしまいます。罪な一文です。
そんな野望を抱えた私は、成人後、行く先々で「シシリアンキスをお願いします。」と注文するようになりました。
注文するうちにわかったことは、どうやらシシリアンキスはメジャーではないためレシピを知っているバーテンさんとそうでないバーテンさんがいるということでした。
ちなみに、レシピはサザンカンフォート40mlとディサローノ・アマレット20mlと氷を混ぜるだけの随分とシンプルなもので、どちらのリキュールも大体常備されています。
シシリアンキスをご存じないバーテンさんに奇しくもあたってしまった場合、レシピを口頭で伝えるのも相手の面子はどうなんだと自問自答してしまいます。お酒に詳しくもないのに「お酒に詳しいですね」と言われるのも困ります。
そうして辿り着いたカクテルがゴッドファーザーでした。
レシピは、スコッチウイスキーを45mlとディサローノ・アマレットを15mlです。
サザンカンフォートを使ったカクテルは炭酸入のものが多いため、炭酸の入っていないシシリアンキスに近づけるにはディサローノ・アマレットを用いた炭酸を使わないレシピを探す必要があったのです。
ゴッドファーザーの方がウイスキーを使っている分、シシリアンキスよりもアルコールがキツイのですが、甘くてアルコール度数の高い飲み物はチビリチビリと飲むにはもってこいです。*2
斯くして、バーではゴッドファーザーを頼むようになったのでした。
おまけ
某大学にゲスト講師としていらしていた江國香織さんに会いに行ったことがあります。
自分の大学の授業をサボって、他大の授業を受けに行くというワイルドなことをした甲斐あって、一等好きな本にサインをいただくことができました。ふふふ
一生の宝物です。ふふふふふ
*1:昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”―恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遙かな旅の物語。
*2:ゴッドマザーというカクテルもありますが、こちらはウイスキーの代わりにウォッカを使うため、ゴッドファーザーよりもさらにアルコールみが強い飲み物です。